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入門ガイド 2/6 「続けるか、渡すか」を考える 約9分

この会社に残された道は、いくつあると思いますか

この記事で崩す思い込み 「後継者がいないなら廃業しかない」

まず、この問題を見てください

関東で電気工事を営む会社です。建設業許可を持っています。(考えるための例題で、実在の会社ではありません)

従業員
6
社長
68
社長の子
息子1人。別の会社に勤務。継ぐ意思はない
番頭格の職長
45。現場は任せられる
純資産
3,000万円
借入
2,000万円(社長が個人保証)
事務所・倉庫
賃借

この会社に残された道は、いくつあると思いますか。

この問いに、多くの方が「1つ」と答えます。廃業です。

そう答えるのは、情報が足りないからではありません。残りの道は、条件を満たしていないと目に入らないようにできています。数え方を知らなければ、選択肢は「無い」のと同じことになる。

ちなみに、社長の平均年齢は60.8歳です(2025年、帝国データバンク)。68歳という設定は、特別に遅いわけではありません。

この記事を読み終わると、この問題に数字で答えられるようになります。9分ほどです。

廃業は、何もしない選択ではありません

いちばん誤解されているところから始めます。

「たたむ」という言葉のせいで、廃業は”止めるだけ”のように聞こえます。実際には、廃業はいくつもの支払いを伴う実行です。

  • 賃借している事務所・倉庫・作業場の原状回復
  • 在庫、資材、仮設材、工具の処分。産業廃棄物として、費用を払って捨てるものが出る
  • 車両・機械の売却。帳簿価額では売れないことが多い
  • 従業員への解雇予告手当と退職金
  • 仕掛工事の後始末。途中で止められない現場は、誰かに引き継ぐか、赤字で終わらせる
  • 解散・清算の登記、官報公告、税理士や司法書士への費用
  • 借入の返済。返しきれない分は、個人保証を通じて社長個人に残る

金額は書きません。会社ごとに違いすぎて、平均を出しても自社の役には立たないからです。ただ、合計がゼロになることはありません。

帳簿上の純資産3,000万円
− 在庫・仕掛・車両・工具の目減り
− 回収しきれない売掛金
− 原状回復・廃棄物処理
− 従業員への支払い
− 登記・公告・専門家費用
手元に残る額3,000万円より小さい

「?」に入る金額は会社ごとに違いすぎるので、ここには書きません。分かっているのは、どれもマイナス側にしか働かないということだけです。

廃業は「何もしない」ではない。費用を払い、資産を目減りさせて、はじめて終わる。

純資産3,000万円というのは、「いま持っている資産が、帳簿の値段で売れたら」という前提の数字です。倉庫を空にして返し、職人に手当を払い、借入を返したあとに何が残るかは、別の計算になります。

廃業は「何もしない」ではなく、費用を払って会社を終わらせる実行です。手元に残る額は、純資産より必ず小さくなります。

なお、休廃業・解散の件数は、2025年について東京商工リサーチが67,210件、帝国データバンクが67,949件と集計しており、前年からの増減は2社で方向が逆に出ています。だから当サイトでは「廃業が増えている」とも「減っている」とも書きません。件数の推移より、1件ごとにいくら持ち出しになるかのほうが、経営者にとっては切実だからです。ちなみに東京商工リサーチの集計では、このうち建設業が10,283件で業種別の2位でした。

渡す先は、親族だけではありません

「後継者がいない」と言うとき、その多くは「継ぐ意思のある親族がいない」という意味です。

全国の後継者不在率は50.1%。建設業は57.3%で、調査対象8業種のうち最も高くなっています(2025年、帝国データバンク)。半分以上の会社に後継者がいないという状態は、もう例外ではありません。

会社を渡す先には、親族以外もあります。

向いている会社つまずくところ
親族内承継継ぐ意思のある親族がいて、本人に適性がある意思のない人に継がせると、同じ問題が数年後に戻る
従業員承継現場を任せられる社員がいて、取引先も本人を知っている株を買う資金と、借入の個人保証
第三者承継(M&A)許認可・有資格者・取引先・仕入口座に価値がある相手を探す期間が要る。条件が合わなければ成立しない
廃業借入がなく、従業員の行き先があり、清算しても手元に残る費用が先に出る。取引先と職人の行き先を自分で決められない

買い手が何を見ているかは、業種ごとに買い手のニーズにまとめました。

実際にどう分かれているか。2025年に代表者が交代した企業では、新しい社長の出どころが内部昇格36.1%、同族承継32.3%、M&Aほか20.6%、外部招聘7.6%でした(帝国データバンク)。親族に継がせた会社より、社内から昇格させた会社のほうが多い。

ここで一つ、気をつけたいことがあります。

内部昇格36.1%は「誰が社長になったか」の数字であって、「株が誰に渡ったか」の数字ではありません。

社長の椅子は、明日にでも渡せます。株はそうはいきません。ここが、従業員承継のいちばん深いところです。

従業員承継が止まるのは、意欲ではなく資金です

例題の会社には、45歳の職長がいます。現場は任せられる。取引先も彼を知っている。ここまでは揃っています。

止まるのは、次の二つです。

一つ目は、株の値段。 会社を継ぐというのは、社長の椅子に座ることではなく、株を持つことです。株の値段は、おおまかに「純資産+実質的な利益×年数」で置かれます(この計算は第1回でひとつの会社を例に最後まで追いかけました)。例題の会社なら、純資産だけで3,000万円。45歳の職長がこれを現金で用意できることは、まずありません。

二つ目は、個人保証。 借入2,000万円には社長の個人保証が付いています。株を渡しても保証が社長に残ったままなら、会社を離れたのに責任だけを持ち続けることになる。かといって職長に付け替えるなら、彼は自宅を担保に差し出す判断を迫られます。金融機関がこれをどう扱うかは、個別の交渉です。

だから従業員承継は、「本人にやる気があるか」ではなく「資金と保証をどう設計するか」の問題になります。数年に分けて買い取る、受け皿となる持株会社を作って会社の利益から返す、一部から段階的に移す——方法はありますが、どれも年数がかかります。

従業員承継で足りないのは意欲ではなく、株を買う資金と、保証を引き受ける仕組み。設計に年数が要るので、思い立った年には終わりません。

「小さすぎて相手にされない」は、事実と違います

第三者承継(M&A)と聞いて、「うちみたいな6人の会社は相手にされない」と思われる方が多い。大手仲介の最低成功報酬が2,000万〜2,500万円と聞けば、なおさらそう感じます(各社の公式サイトおよび中小企業庁のM&A支援機関登録制度で公表されている手数料体系から。2026年時点。中堅で1,000万〜2,000万円、小規模特化で200万〜500万円程度が中心です)。

ただ、窓口は民間だけではありません。

国が全国に設置している事業承継・引継ぎ支援センターには、令和6年度に23,540者が新規に相談し、2,132件が第三者承継として成約しています。累計では12,306件です。

この成約企業の内訳が、こうなっています。

売上3,000万円以下36.1%
売上3,000万円〜1億円31.9%
売上1億円以下 合計68.0%

令和6年度に事業承継・引継ぎ支援センターで成約した企業の売上規模(中小機構)。業種別では建設業が12.2%を占めます。

成約の3分の2以上が、売上1億円以下の会社です。

「うちは小さすぎる」は、規模の問題ではなく、どこに持っていくかの問題であることが多い。

なぜこうなるのか。民間の仲介は成功報酬で成り立っているので、報酬が採算に乗る規模から順に扱うことになります。これは業者が不誠実だからではなく、報酬の構造がそうさせています。だから小規模な会社は、公的な窓口や、小規模を専門に扱う事業者のほうが噛み合う。当社が手数料を全額公開しているのも、利益相反への方針を先に出しているのも、この構造を見えるようにするためです。

費用の面でも、公的な支援があります。事業承継・M&A補助金には「小規模売り手支援類型」があり、補助率2/3・上限450万円、廃業費用を併用する場合は+150万円、成立しなかった場合でも上限50万円が対象になります。対象は小規模事業者(製造業等20人以下、商業・サービス業5人以下)です。

注意。この類型の申請受付は2026年7月24日で締切済みです。 次回の公募で継続されるかどうかは、必ず公式サイトでご確認ください。

目を引くのは「廃業費用を併用できる」という設計のほうです。国の制度は、譲渡と廃業を排他のものとして扱っていません。事業の一部を渡して、残りをたたむ。それも一つの道として想定されている、ということです。

廃業を選ぶのが正しいこともあります

ここは正直に書きます。

次のような場合、廃業のほうが合理的です。

  • 清算して手元に残る額が、譲渡で得られる額を上回る(不動産を持っていて、事業の利益が薄い場合に起こります)
  • 従業員の行き先がすでに確保できていて、取引先にも代替がある
  • 社長個人の事情で、相手を探す期間そのものが取れない
  • 事業が社長個人の技能と人脈に完全に依存していて、渡しても続かない

ご相談を受けて「この会社は、たたんだほうがいい」とお伝えすることもあります。譲渡が常に正解ではありません。

ただ、一つだけ構造の話をさせてください。

休廃業・解散した企業の代表者は、90.6%が60代以上でした。80代以上が34.0%を占めます(2025年、東京商工リサーチ)。

この数字が示すのは「廃業は経営者の高齢化とともに来る」という事実だけで、その一件ずつが手遅れだったかどうかまでは分かりません。ただ、はっきりしていることがあります。従業員承継は資金と保証の設計に年数が要り、第三者承継は相手を探す期間が要る。80代になってから数え始めたとき、間に合う道は60代のときより少なくなっています。

道が減ってから選ぶのと、揃っているうちに選ぶのとでは、同じ「廃業」でも意味が違います。

では、数えてみましょう

最初の問題に戻ります。条件は変えていません。

最初の問題を、もう一度
従業員
6
社長
68
社長の子
息子1人。別の会社に勤務。継ぐ意思はない
番頭格の職長
45。現場は任せられる
純資産
3,000万円
借入
2,000万円(社長が個人保証)
事務所・倉庫
賃借

この会社に残された道は、いくつあると思いますか。

自分で数えてから開く

道は、制度としては4つあります。親族内承継、従業員承継、第三者承継、廃業。これを例題の会社に当てはめます。

親族内承継 … 落ちます。 息子さんに継ぐ意思がありません。ほかに候補となる親族がいなければ、ここは数えない。意思のない人に継がせるのは、同じ問題を数年先に送るだけです。

従業員承継 … 条件付きで残ります。 45歳の職長がいて、現場は回る。ただし株の3,000万円(純資産だけでこの額)と、借入2,000万円の個人保証。この二つを設計しないと動きません。設計には年数がかかります。

第三者承継 … 残ります。 建設業許可があり、有資格者がいて、6名の職人がいる。人が採れない買い手にとって、これは採用の代替になります。規模を理由に諦める必要はありません。公的窓口の成約の68.0%は、売上1億円以下の会社です。

廃業 … 残ります。 ただし帳簿の3,000万円がそのまま手に入るわけではない。原状回復、在庫処分、従業員への支払い、借入の返済。手元に残るのは、これより小さい額です。

制度としての道4つ
この会社に残っている道3つ
今日そのまま動かせる道2つ

従業員承継は「残っているが、今日は動かせない」。資金と保証の設計が終われば、3つ目として戻ります。

答えは3つです。「1つしかない」と感じていたなら、2つ見えていなかったことになります。

条件をひとつだけ変えると、こうなります

ここからが、いちばん自分ごとになるところです。

番頭格の職長が、いまも職長のままではなく、数年前に取締役に入っていた場合。 ほかの条件はすべて同じです。

  • 建設業許可の経営業務の管理責任者の要件を、社長以外にも満たす人がいる状態になります。社長が抜けても許可が続く。第三者承継を選んだ場合、この一点でのれんの年数が変わります(第1回で計算したとおりです。制度の中身は社長が引退すると建設業許可が消える会社があるに書きました)
  • 従業員承継は「資金と保証だけ」の問題に絞られます。経営の経験があるかどうかは、もう問われない
  • 結果として、廃業を急ぐ理由が一つ減ります

肩書きを一つ変えていたかどうかで、今日動かせる道が2つから3つになる。そしてこの差は、あとから短縮できません。 経営の経験年数は、必要になってから作れるものではないからです。

道が1つに見えるのは、道が1つだからではなく、残りが条件を満たしていないからです。条件のいくつかは、いまからでも作れます。

まず、自社に残っている道を数えてください

もう数え方は分かっています。

親族に意思があるか。社内に、株と保証を引き受けられる人がいるか。渡せる価値——許可、有資格者、取引先、仕入口座——が何本あるか。清算したら、いくら残るか。

どれを選ぶかは、あとで決めれば十分です。まず、いくつ残っているかを数える。 順番はそちらが先です。

軽いものから並べます。

  1. 企業価値の目安を診断する — 第三者に渡す場合の目安が出ます。入力内容は送信されません。お名前も連絡先も不要です
  2. 承継準備チェックリスト — 経営業務の管理責任者や個人保証の状態を含む21項目。印刷して社内でお使いいただけます
  3. 月1回のニュースレター — 制度の改正や補助金の公募情報をお送りします。すぐ動く予定がなくても構いません
  4. 相談する — 「うちに何が残っているか」の整理だけでも結構です。廃業のほうが合理的だと思えば、そうお伝えします

あわせて読むなら、進め方と期間電気工事会社の事業承継とM&Aを。「借入があるから第三者承継は無理だ」と思われた方は借入5,000万円の会社は、売れます、「欲しがる相手などいない」と思われた方はこの会社を欲しがる会社は、いると思いますかへ。

参照した一次資料

記事中の試算は、これらの一次資料と当社の実務上の見解に基づくものです。 実際の評価額を保証するものではありません。

この記事について、よくいただく質問


従業員に継がせたいのですが、本人に株を買うお金がありません。
一括で買い取る以外の方法があります。数年に分けて買い取る、受け皿となる持株会社を作って会社の利益から返済していく、まず一部だけ譲って段階的に移していく、といった設計です。いずれも金融機関の理解と、借入の個人保証をどう扱うかの交渉が前提になります。共通しているのは、どの方法も年数がかかるということです。社長が引退したい年から逆算すると、思っているより早く着手する必要があります。
廃業を選ぶのは、間違いですか。
いいえ。清算して手元に残る額が譲渡で得られる額を上回る場合、従業員の行き先がすでに確保できている場合、事業が社長個人の技能と人脈に完全に依存していて渡しても続かない場合——どれも廃業が合理的です。ご相談を受けて「たたんだほうがいい」とお伝えすることもあります。この記事でお伝えしたいのは「売るべきだ」ではなく、「どれを選ぶにしても、全部見てから決めたほうがいい」ということです。
従業員6名の会社でも、買い手は見つかりますか。
規模だけを理由に諦める必要はありません。事業承継・引継ぎ支援センターで令和6年度に成約した企業のうち68.0%は売上1億円以下で、売上3,000万円以下が36.1%を占めます。業種別では建設業が12.2%です。ただし「必ず見つかる」とは書けません。相手が現れるかどうかは、許認可・有資格者・取引先・仕入口座に何が残っているかによります。

2026年7月26日/ 執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)

「うちの場合はどうか」を聞いてください。

売却をお決めでない段階で結構です。
「今は続けたほうがいい」とお伝えすることもあります。

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